今回の旅行は、我ながらかなりコンパクトな荷づくりだったと思う。
事前に、背中にしょえてさらにキャスターがついててひきずることもできるキャリオンバッグを買った。が、日本のサイトで見るほど気の利いたものはなく、しょうがない、とりあえずこちらでオーダーで来るものを買ったのだった。かなり大きくて(私がしょうと)、今回使ってみていまいちではあったが、とにかくそんな失敗もありながらも、全体の荷物としてはかなり少なかった。
それでも私なりのおしゃれの努力は一応ちょっとはした。ほぼユニクロの服しかないけれど、そこにちょっとブローチを付けていた。そのブローチはいつかロンドンに行った時に、Agnesbで買ったハートのシルバーのシンプルなものだった。ところで、Agnes b は、フランスの次に、いやフランスよりも日本でのほうが人気があるのではないかと思う。ビジネス的にも日本のほうが大きいというようなことを、ロンドンの店員が言っていたのを覚えている。
話をブローチに戻す。このブローチを付けていて何か聞かれたりしたことはいまだかつてなかったのだが、今回パリで初めてこのブローチについて説明をしてくれた人がいたり、なんだかじーっと見ている人がいるなというのを感じたことがあったのだった。
地下鉄に乗って移動中だった。とてもおしゃれで素敵なマダムが、フランス語で話しかけてくる。わからなーい、「ごめんなさい、英語」といっても、何か伝えたいようで、一生懸命話しかけてくる。私がピックアップできた単語はAgnesbとサラエボだった。なんでサラエボなのかわからなかったが、「あ、そうなの、これAgnesbよ。あなた働いているの?」と聞く。「ノンノン」といってまだ説明する。「わかった、あとでググってみます」と英語で言うと、そうね、と彼女もタイプするようなしぐさを見せる。
降りる駅を乗り過ごさないように、次の駅が来るたびにちらちら気にしてほんとに短い間の会話だったのだが、彼女は自分の携帯でググって私に見せる。でも、そのブローチの写真ばかりを見せてくれても何のことだか全くわからなかった。そのうち駅が来てしまって、バーイと、とにかく何かをシェアした気でほほえましく分かれた。
帰ってきて、調べてみると、このハートのデザインは、Agnesbのデザイナーが、2004年のサラエボフィルムフェステバルの時に、アワードのデザインとして提供したものと言う事で、それ以来このハートのデザインの着いたTシャツなどの利益をサラエボの恵まれない子供達への寄付として渡していると言う事だった。当時は戦争中でいろいろ大変な中、フィルムフェステバルを決行するか否かが討論されているさなか、決行に決まったという、そんな、あるヨーロピアンには忘れられない時期だったのに違いない。そんなことは全く知らず、ただ単にかわいいと思って買ったブローチだったのだけれど、なんというか、さすがフランス人はフランスのプロダクトのことを知っているというか、ヨーロッパのものだったというか、こんなこと初めてだった。
そしてまた、それを説明してくれようとしたマダムは、なんでそんな熱心に、またはうれしそうだったのか、その辺も気にはなったけれど、それはいい余韻としてそのまま残っていてもいいのかなと思っている。また、私の思い違いと思うかもしれないが、確かにこのマダムの前にも、やっぱりメトロでじっと私のどこかを見る女性がいた。このブローチ以外何があろうか。
ああ、都会。車社会ではなかなかないことであった。
また一週間💛