Salma Burke

  先週末、オフブロードウェイ―っぽい劇場であるArt Commonで「Salma Burke」という作品を見に行った。

 もちろんお決まりの日曜日のマチネなので、見事に平均年齢の高い客層だった。そして思っていたよりすいていた。私の席はMezzoniという、横から見る席で、隣の隣まで空いていて余裕。

 あまりよくわからずに、黒人女性が主役の教育、文化、政治、そして何より芸術を重視した内容、みたいな紹介文を読んで、「なんでもいいから行って見よう」という気持ちでチケットを買ったのだけれど、意外や意外、とっても面白かったのだった。

 まず内容だけれど、Salma Burkeというのは人の名で、彼女のアーティストとしての人生や、その作品にまつわるお話を、とってもユニークでアーティスティックな演出と舞台装置で見せてくれる。いろいろなシーンと登場人物がいるのに、それを4人だけのアクターでこなす。セットも面白い仕組みになっていて、ちょっと部分的に変わって(または変えなくても演出の仕方が変わって)、すっと違和感なく、その場面へとメンタルについて行くことができるのだった。

 Salmaは主に彫刻家である。彼女の彫刻をそれぞれの役者が演じるところは、面白おかしい。どんな作品にも魂があるというメッセージなのか、彫刻のはずの役者がしゃべったり、感情を訴えたりするところがユニークに演出される。

 ちなみに、彼女の作品である「無題(女と子供)」という彫刻は、ワシントンDCのスミソニアン美術館にある。ルーズベルト大統領がお札の顔になったのは、実は彼女の絵が元だったと言う事は知らなかった。けれど、クレームをしにDCへ出向いたところ、相手にされないどころかFBIに逆に狙われてしまう。人種問題もやっぱり避けられない要因だけれど、それを主なメッセージとするのではなく、あくまでも一人のアーティストの人生と、アートに対する姿勢やその意味とか価値を教えてくれるような内容だったところがいい。90分で、インターミッションのないお芝居だったが、4人がフルに演じ通して見事に最後まで見せてくれた気がする。

  アーティストにも色々いて、ポリティカルに作品を通して訴えるアートはよくあるけれど、彼女はポリティカルなことはさておき、依頼してきた相手が誰であろうと、興味があるのは自分の作品を作ると言う事のみというところが彼女らしい。アートには、どんな人物をモチーフにしようと、作った人の魂があるわけで、どれも尊いというわけだ。ポリティカルな理由で作られた銅像が、よく反対運動などで壊されることがあるけれど、彼女にとっては、それはただのアート作品であり、それを破壊するなんて、「どうして」と思うわけだ。

 後年、生計を立てるために、彼女から習いたいという学生をアトリエにて教育する。白人の若い学生が訪れ、彼女に言う。「いいわね、こんな風にアトリエをもって、好きな仕事に没頭できて、生計を立てられるなんて。 うちの両親、特に父親なんかは、私がアーティストになるというと、本当にそれが正しい選択か考えろなんて言うの。」彼女は淡々と、いわゆる上流白人家庭のお嬢様生活を、無意識に話しだし、それよりよっぽどアーティストの人生が魅力的に見えるというようなことを話し出す。いわゆる、何不自由ない人生を送ってきていて半ば退屈、なおかつ現実をあまり知らない、幸福な若者の一例。

 そこで彼女は、自分にはチョイスはなかったことを口にする。そこへ浮浪者同然となってしまった同じく黒人の、2番目の元夫がやってくる。学生は「いやねー、さっさと追い出した方がいいわ」というような素振りを見せる。一度行ってしまったかと思った彼がもう一度戻ってくる。もちろん、お金が欲しい。うつむきながらもお金を渡すSalma. 現在はいくつかの彼女の作品が残っているのは本当にありがい。このような劇を見た後は、きっと彼女の作品からはより深く魂を感じることだろうと思う。

 さてこの日、劇場内のカフェはどんな感じかと見たくて割と早めに行ったのだけれど、なんと、席のあるレストラン風な店と、カフェの席は満席。なるほど、日曜日となると、ここで食事をしてそのあと劇を見よう、と考えるのは、結構みんな同じ。なのに、(私の意見としては)全く席も少なくてどこか残念。リノベーションの予定はないのかしら、と思うのだった。私はコーヒーを飲みたいだけだったけれど、劇が始まる前に、ゆっくりしたかった。そのように思ってきている人は私以外にもいて、結局テイクアウトで頼んで、劇場内に入る。劇場内といっても、インターミッションで人々が集まれるその広場にも、バー&カフェはあったが、こちらもすごく混んでいた。ま、こんなもんか。混んでいるっていうのはいいことで、そうでない日もあるのかもしれない。特にこの日は、プレイライターの二人のトークショウ見たいのが行われていたせいもあったのかもしれない。

 やっと暖かくなってきたし、日も長くなってきたこういう時期は、どちらかというと多くのカナディアンは週末は野外で過ごすものだが、私はシニアに交じって、もっともっと劇場へ行こうと思う。

 また一週間💛