カルチャーと人種問題と:Theme of Culture and Race

 Bridgelandというカルガリーのエリアがある。スタジオもプライベートでセッションをしているGの家もその近辺であり、クラスの合間の時間はそのエリアの気に入っているスターバックスをよく利用している。

 ある平日の午後、いつものように行って見ると、小学生のガキンチョがいっぱいいた。とりあえずそれぞれの席でグループになっていて、それなりに何かオーダーをしているものの、みんな自身のランチを持参しており、仲間の中には何も買わずにランチだけ食べている子もいた。とりあえず仲間のだれかが何かを買っているという礼儀はパスしているから、お店の人も何も言わないし、まあこの辺のコミュニティーに貢献しているビジネスともいえるから、お互いがよければいいのだろうと納得する。

 さて本日は、ちょっと人種の違いとかカルチャーセンシティブにかわることを書いてみようと思う。

 人種差別。今の自分としては幸いなことに、そういう対応があったとしても「カナダ人」としてここにいるという自覚はなく、あくまでも日本人でレジデンスビザを取った故に仕事もいただき住んでいるという感覚なために、差別的なことがあったとしてもそれほど気にしていないのだと思う。

 だから、カナダ人として住んでいる他のカラー人種の人たち、またはファーストネーションの人たちが感じていることを本当の意味では経験していないと思う。

 「どこから来たの」というこの質問を差別的質問だと受け止めたことが私はないのだけれど、これはアルバータヘルスサービスの差別的質問文というリストにしっかり入っているのだそうで、そういう会話を最近ダーリンと夕飯時にしていたところだった。そして、実際にそう聞かれて差別を感じた、という話をしてくれた人が、今回のメインになる黒人の職場の一人、Rのこと。

 Rはリクリエーションセラピーデパートメント(RTD)のメンバーで、私達のOTデパートメント(OTD)と同様3人のメンバーで成り立ち、それぞれOTかRTというマネージメントレベルの人がいてその下にフルタイムとパートタイムのアシスタントがいる。只今OTDとRTDの両方で人員が不足しているため、RがなぜかOTの手伝うことになった。

 話してみれば、彼女は政治経済を専攻してBC(ブリティッシュコロンビア州)の大学の学位を持っているし、ドイツ語、アラビア語、フランス語が分かり、いろいろな経験をしていた。レジデントさんが亡くなった時にはオフィスの席で寂しそうにして涙を見せ、心優しい人である。

 ある日彼女は打ち明けてくれた。これって全くフェアじゃないし、人種差別だとしか思えない、と言う事が職場であることを。そしてどこの職場でもあるように、マネージャーやもっと上の人達への不満も。「私がブラックだからと言う事と、モスリムだからと言う事でこういう扱いを受けたんだと思う」と。

 先に言ったことだけれど、私は差別的なことにまだまだ疎いので、こういうことを聞くと一瞬すべてを差別と思わないほうがいい、なんて思うのだけれど、これは当事者としてはやっぱり深刻な問題で、白人はもっともっと気を付けなくてはいけない問題らしい。

 それでも彼女はポジティブでいる。そしてかなり強い。やられたらやり返す、そうすれば私がどういう気持ちになったかがその人にもわかるはず、というスタンス。日本人は割と仕返しはしないほうで、そこがうまくいく秘訣ではないかと思っているのだけれど、毎度自分の常識など所変われば全く裏返される。自己犠牲の美徳というのはこちらではあまりなく、そんなことをしても何もならないというか、逆に馬鹿にされるか弱いと思われるか、押しつぶされる傾向にありほぼ通じないと思う。

 Rも私が有色人種なゆえに本音を打ち明けてくれたんだと思う。彼女の胸の内には日ごろの怒りがあった。かなり前のことを「あなたに見せたいことがある。これ見て。」と、誰かに話したかったと言わんばかりにある腹の立つ出来事の発端となっているものを見せてくれた。いろいろな事態に備えて、その都度証拠としてちゃんと保管してあるのだと。インセキュアという言葉があるが、なんというか守りの体制が強すぎて、たまにコミュニケーションが難しいと思うのは多分私だけではないと思う。けれど、そうしなければならない理由というのがあるのだと思う。

 ある時、OTが返品用の靴が入った箱のラベルを明記するためにその写真を携帯でとって関係者にメールで送った。ところが箱の下に誰かの足が映っていた。Rはそれが自分の足だとほぼ確認し、ものすごくその写真に反応した。私がひとセッション終わって帰ってきてもまだその写真を見ている。「まだみているの?」と私。「これは私の足よ。写真を撮るならちゃんと許可を得て撮って、それからみんなに送るべきでしょ。」とR。「ちょっといい?その写真の目的はボックスの上のラベルであって、そんなちょっと写っている足なんかだれも気にしてないわよ。だいたいそれがあなたの足なんてだれがわかるというの?」と少々イライラした私。彼女にとってはちょっとでも自分の体の一部が映っている写真を許可なくとって、メールで送るという事実がとっても気にかかっていた。これは上司か人事部のほうに訴えるつもりだという。「そんなことで騒ぐのはよしなさいよ」みたいなことを私は偉そうに言ったんだと思う。言い過ぎたかな、と思ったら、「あらそう?私が馬鹿を見るかしら。」と素直に引いたのもまた面白かった。でもこれも後で思ったけれど、自分が馬鹿を見ると言う事にも敏感で、たまにそれだけが彼女の重視していることではないかと思ってしまう。つまり、どうしても負けるわけにはいかない、生き延び良い結果を出さなくてはいけないという。

 彼女はとにかくメールとか、チャート(セッションの後に必ず何をしたかを残すPC上の書面)などの証明になるものにはすごく慎重である。PCの数が決まているので、さっさとチャートを終えてもらわないと他のPCを使う仕事ができないのに、彼女は一人のチャートを書くのにものすごーく時間がかかるのだった。

 ロングタームディスアビリティーというベネフィットを使って仕事を休んでいる白人のスタッフがOTDとRTDの両方にいるわけだけれど、二人ともメンタル面でストレスが原因でドクターストップがかかって休んでいる。それに比べてカラー人種というのは打たれ強いというか、強くなくてはやっていけない気がする。アンフェア―なことを前提に、それに戦うにはどうしたらいいかというのをいつも気にしているのかもしれない。どう逃げるかではなく、どう戦うかという姿勢だと思う。

 相棒が長期で休んでいるために私の仕事量が増えて、セッションを手伝ってくれと頼めば快く引き受けてくれるRと一緒に働く機会ができたことはなかなか良い体験なのかもしれない。このことを機会にもう少しよく彼女のことを知ることもできたし、とにかく彼女の手伝いなしではOTDは穴だらけになっていたことだろう。メンタル面でロングタームディスアビリティーを必要とした相棒が、ぱきっと治ってバリバリ帰ってきた早々働けるわけではなく、しばらくは徐々に仕事時間を増やすという形で帰ってくる。そうなればおそらく来月も、そしてこの先も事あるごとにRとかかわっていくことはあるに違いない。

 RTDのほうも、Rの相棒が帰ってきた折には仲良く平和にやって行ければいいなと思うけれど、そこが職場。人間関係の課題は続くのだろう。

 また一週間💛