カルガリーの一大イベントのスタンピードが今月から始まって、去年がCovidで初めて中止されたため、今年はちょっぴり意気込んで今年こそという賑わい。
スタンピード中はいろいろな職場で「ジーンズやウエスタンっぽい服装」が許可されたり、あるいはエンターテイメントの意味を込めてそういう格好を推奨されたりする。いまだにあのチェックのシャツを持っていないので、ザ・ウエスタンの格好をしたことがないのだけれど。
さて、施設のほうの職場の話。ロングタームケアーという施設だから、まれに若い人がいることもあるが、対象者は老人が多い。ところが、職場のスタッフになると、圧倒的に自分より若いスタッフが多い。それはやっぱり体力勝負の職場と言う事もあると思うけれど、若いというのは、自分の反省も含めて「自分勝手」「自分中心」で物事を回すことが多いとも言える。または白か黒かでしか物事を見れないということもあると思う。ということで、スタッフ同士での言い争いだったり、不満だったり、「その言い草はないだろう」と腹を立てることも多々ある。
と、同時に、特にヘルスケアーエイド(HCA)と言われる、ナースではないのだけれど、身の回りの世話をするスタッフたちは、タフな人が多いが、スイートな心を持っている人が多く、時に心を打たれる。
これは先日あった話。レジデントさんの中でも、どうしてもみんなに愛される人というのはいるもので、そういう人はおばあちゃんになってもかわいらしさを失わず、ユーモアがあり、あまり不満を言う事もなく、自分でできることはできるだけやろうとする。そういう人の一人である、あるファーストネーションのレジデントさんとセッションを共にしていた時のことだった。
彼女は認知症というには全く疑問で、耳が遠いとか、年より独特のボケとかトンチンカンなことを言う事はあったとしても、認知症という感じではないとみんな思っている。なので、ロックユニット(セキュア―ユニット)という、ドアの暗証番号を押さないとそのユニットから出られないユニットにいる必要はまったくないのだけれど、入居時に部屋が空いていたこと、同じ言葉を話せるもう一人のファーストネーションのレジデントさんがいたこと、それから当時は逃げ出す癖があったということで、そのユニットに入っている。今では、そのユニットから外に出す方が大変で、「ちょっとイベントがあるから行こう」と誘っても、「私はここにいるから、あなた行ってきて」と断られる。
何とかだましだまし外に出て、ほかのユニットに遊びに行ったりすると、HCAたちが必ず近寄ってくる。ある、かわいい顔をしてはっきりものを言い、よく仲間内でも言い争うことがあるHCAが両手にゴミをもって通りすがりに、「彼女にあいさつしたいから、まだ行かないでね」と私に言った。そしてやっぱり戻ってきた。
車いすの高さになるようにしゃがみ込み、ぎゅーとそのレジデントさんをかなり長く抱きしめて、You are so beautiful, I love you と言って頬にキスしたり頭や顔を撫でたりしてじっと彼女を見つめて最後にまた抱きしめた。彼女が去った後、そのレジデントさんの目から涙が落ち、鼻をすすっていたので、何かぬぐうものを手渡したのだが、ちょっと驚いた。涙をぬぐいながら向こうのほうを見て、「こういうのを長い間忘れていたよ。」と小さくつぶやき、平静を保っている彼女もまた愛おしい。
やっぱり人は、こういう何か温かい気持ちを求めていて、実はちょっと寂しい。抱きしめたHCAの若い彼女は、ふだん「このやろー」と思う態度があったとしても、スイートな部分がいつも勝つ。
この後、セッションが終わってこのレジデントさんから離れるときは、いつも「どこに行くの?すぐに戻ってくる?」と聞かれて少々切ないのだけれど、この日はさらに手を握られて肩と頬の間でぎゅっと押されたままで、切なさ万歳だった。きっと、HCAの彼女が、いつも感情をあらわにして人を困らせたりしないこのレジデントさんの何かに触れたせいで、レジデントさんから思わず出た行動だったに違いない。それでも5分ぐらいだろうか、そのままでいると、ふっと彼女も平静を取り戻し手を放してくれた。それもまたいじらしいと思う。こんな人だから、みんな彼女のことを好きにならずにはいられない。
私はこの仕事をドライに行っているほうだと思うから、そうでない人を見るとすごいなあと思う。反省も時にする。そして私の仕事は、機能回復や現状維持が目的なので、精神的にも肉体的にも衰えてセッションを行えなくなったらディスチャージ(解除)となる。その点HCAたちは、ペリアティブケア(臨床期のケア)までしっかりそのユニットのレジデントさん達のケアーをする。いったい何人もの最期を見届けてケアしてきたことか。
という、ちょっと暖かく、反省もできるある日の出来事だった。
また一週間💛